アイスランドは世界最大の繁殖地

アトランティック・パフィン Atlantic Puffins

 

パフィンとアイスランド

パフィンはチドリ目ウミスズメ科に分類される海鳥で現存種としては以下の3種に分けられる(括弧内はラテン語名);

  • アトランティック・パフィン Atlantic Puffin (Fratercula arctica)

分布: 北大西洋(繁殖期:アイスランド、フェロー諸島、グリーンランド、北欧の沿岸部、北米の東部:メイン州の南部)、冬季:北大西洋の南の海洋で過ごす(最南はモロッコやニューヨーク州付近の海域)

  形態: およそ、全長32p、翼幅(開長)53p、体重は400g前後。太くて派手な嘴が特徴で、縦に平たくて数本の溝があり、先から赤、黄、灰青色にいろどられている。胸から腹は白く、腹と顔以外の羽毛は黒い。冬羽では顔が灰色でくちばしもくすんだ色だが、夏羽ではくちばしの色があざやかになり、顔が白くなる。目の上と後ろに黒くて細いもようができ、名前のとおり目から角が生えたようになる。

  • ツノメドリ Horned Puffin (Fratercula corniculata)

    分布: 北太平洋(繁殖期:シベリア沿岸部、アラスカ、カナダ・ブリティッシュコロンビア州、冬季:カリフォルニアやバハ・カリフォルニア)

   形態: およそ、全長38p、翼幅(開長)58p、体重は600g前後

  • エトピリカ Tufted Puffin (Fratercula cirrhata)

  分布: 北太平洋亜寒帯域(繁殖期:カナダ・ブリティッシュコロンビア州、アラスカ南東部全域、アリューシャン列島、カムチャッカ、クリル諸島、オホーツク全域、北海道東部のユルリなどの島、冬季:北海道東部の沿岸部、カリフォルニア)

   形態: およそ、全長40p、翼幅(開長)65p、体重は750g前後

3種とも鳩を一回り大きくしたサイズだ。最も顕著な特徴が太くて縦に平たい嘴で、縦に数本の溝があり、根元が黄色で先が赤い。胸から腹は白く、腹と顔以外の羽毛は黒い。北海道東部で繁殖するエトピリカはアイヌ語で嘴(etu)が美しい(pirika)という意味だが3種に共通する特徴だ。

 

■アトランティック・パフィンとアイスランド

アトランティック・パフィンの最大の繁殖地はアイスランドだ。

パフィンの集団とも云えるコロニーはアイスランドに大小数限りないほど存在する。アトランティック・パフィンに限れば、世界中の棲息数の半分以上のパフィンがアイスランドで繁殖したものだ。毎年300万番いのパフィンがアイスランドで営巣し、子育てをしていると推定されている。合計すれば600万羽ということになるが、この数字はアイスランドで夏を過ごす数のほんの70%に過ぎない。ペアを組まずに過ごすものを含めればその数は800万羽とも1000万羽とも云われている。

パフィンは愛らしく、極めて愛嬌がある鳥だ。アイスランドで最も人気がある海鳥で国鳥的存在なのである。空を飛んでいるときも地上にいるときも道化師のようにおどけた表情や動きをする。風変わりなほど色鮮やかな外見と愛くるしい動きがあわさって一層愛らしさを募らせている。

しかしながら、最近の調査ではパフィンの数は減少傾向にあるという。その理由としては、パフィンが主食としている小魚(イカナゴが殆ど)がアイスランドを取り巻く海域で少なくなってきているというのが最大の理由で、特に、斯うした兆候はウエストマン諸島に著しい。

アイスランドでパフィンが観察できる時季は?

アイスランドでは4月18日以降の最初の木曜日(2009年では4月23日、通常の場合、4月の第4木曜日)が「夏到来の初日First Day of Summer」で祭日である。この頃になると冬の間北大西洋の南の海洋で過ごしていたパフィンたちはアイスランドに再び飛来してくる。そして、それぞれの地で営巣し、産卵し、子育てをしながら夏の間アイスランドで棲息する。そして、幼鳥が成鳥となり、巣立ちを終える8月後半から9月の初旬にかけて再び越冬の為にアイスランドを離れる。だから、パフィンを観察するためには少なくともこの時季内に、出来れば4月下旬から8月中旬に訪れることをお勧めしたい。

アイスランドの主なコロニー

アイスランドでは至るところでアトランティック・パフィンと出会える。西部フィヨルド地帯にあるラゥトラビヤルグはヨーロッパ最西端の地にあるクリフだが、ここは海鳥が棲息する3大クリフのひとつだ。他の2箇所は同じく西部フィヨルド地帯の北西部にあるホットンビヤルグホットンストランディル。そして南アイスランドのインゴゥルブスホプジ、西アイスランドのブレイザフィヨルズゥル湾、東アイスランドのボルガルフィヨルズゥル・イーストリなども大きなコロニーだ。 インゴゥルブスホプジは アイスランドの最高峰クヴァンナダルスフヌークルがある連山オーライヴァヨークトルの真直ぐ南に位置する標高76mの岬。アイスランドの最初の移住者インゴゥルブル・アルトナルソンが上陸した最初の場所で、その後レイキャヴィークの近くに移住するまでの一冬を過ごしたことから名付けられた。海鳥の営巣地としても有数なところで夏には数十万羽のパフィンが集う。ボルガルフィヨルズゥル・イーストリの港の埠頭の近くにはバードウオッチング用のハットもあるほど。

その他の代表的なパフィンの棲息地は、ウエストマン諸島(ヴェストマンナエイヤル)、ブレイザフィヨルズゥル湾そしてレイキャヴィークの沖合い僅かボートで3分に浮かぶ、その名も“パフィンの島”を意味するルンドエイ島である。ルンドエイは他の生息地と比較すればそんなに大きな生息地とはいえないもののそれでもほんの小さな島に2万羽以上が生息している。

ホットンビヤルグとハイラヴィークルビヤルグのパフィンは他の地域のパフィンと較べて人間に対して警戒感が少ない。その理由は明瞭かでこの地域ではパフィンはほとんど捕獲されることがないからだ。パフィンは勿論如何なる鳥類もここホットンスタンディル自然保護区で捕獲されることはないのだ。人間は鳥たちの裏庭を訪れる害のない余所者に過ぎない。 この写真はウエストフィヨルド地区ツーリスト・オフィースのホームページから拝借したものだ。人間がゆっくり這いながらパフィンに近づき、 写真を撮ったり、優しく彼らに触ってもこの地区のパフィンは怖がって逃げたりすることはほとんどないから知らない人はびっくりさせられる。

レイキャヴィークの湾内にもパフィンの島が

レイキャヴィークや衛星都市モスフェットル&セルチャルトナルネスが面している小峡湾コットラフィヨルズゥルには小さな島々が幾つか浮かんでいる。その最大の島はレイキャヴィークからフェリーで5分で行けるヴィズエイ島。この島の直ぐ近くにはアークルエイ島(ヴィズエイの西)とルンドエイ島(ヴィズエイの北)がある。どちらも小さな島だがパフィン・アイランドとして知られていて、夏の間はアークルエイ島には12000番い、ルンドエイ島には1万番いものパフィンが巣くい、島の沿岸部は殆どパフィンによって占拠される。シーズン中はレイキャヴィーク港のピアからボートツアーが出るので気軽にパフィンツアー観察が出来る。

最大のコロニー、ウエストマン諸島のパフィン事情

アイスランドに棲息するすべてのパフィンのおよそ半分を抱えるウエストマン諸島の中で最大且つ唯一人が住むヘイマエイ島では、パフィンは捕獲も保護救済もされている。パフィンはヘイマエイ島に住む人々にとっては何世紀にも亘って不可欠且つ重要な食物源であった。しかしながら、人々はパフィンが必要なことを経験的に知っていたので、彼らは持続的に捕獲をし続けてきた。一方で、人々は島中を挙げてパフィンの救出に当たってきた。パフィンはクリフの壁面の巣穴で産卵し子育てをする。8月になると新しく誕生した数百万羽のパフィンの幼鳥が巣を離れ、翼を広げ、すべり降りながら海に向かって飛び立っていく。これがパフィンの巣立ちだ。パフィンの幼鳥は月明かりを頼りに飛び立つ故に巣立ちは必然的に夜になってからとなる。その結果、パフィンの幼鳥の多くが悲劇に襲われることになる。夜の町明かりに惑わされ、その飛行計画は狂わされパフィンの幼鳥は海とは反対の町に飛び立ち、アスファルト舗装された硬い道路や舗道、真っ暗な庭に降り立つ。その結果、車に轢かれたり、潜んでいる猫の餌食になったりするなど、幼いパフィンの幼鳥が危険いっぱいのアスファルト・ジャングルで生き延びる術はまったくない。そこでヘイマエイ島の人々は町をあげて悲劇に遭遇したパフィンの幼鳥に救いの手を差しのべる。特に、島の子供たちは一生懸命。子供たちは海に向かって飛び立つ代わりに町中に迷い込んでしまったパフィンの幼鳥の捜索と救出のための救助隊を編成して大活躍するのだ。8月のこの時期、親たちはこの活動のために子供らが夜遅く出かけるのを許可するのだ。みんな段ボール箱と懐中電灯を持って街中を歩き回って餌を求めて迷い込んだ幼鳥を拾い集めて回る。子供一人で一晩で十羽以上を集めることも珍しいことではない。集められたパフィンの幼鳥は民家や車庫に用意された箱で一晩保護され、翌朝、浜辺に連れて行かれて海に向かって一羽一羽空高く放されるのだ。 こうした子供たちのパフィン救助活動はこの島では代々に亘って続けられてきているもので、数百羽ものパフィンが子供たちによって海に向かって放される光景はひと夏の終わりを告げる伝統とも云える風物詩となっているのだ。ヘイマエイ島では食物源としてパフィンの捕獲が認められている。捕獲期間は7月1日から8月15日までに限定されており、この捕獲期間が終了すると子供たちのパフィン幼鳥の救済のためのパトロール活動が始まる。

1900年頃、ウエストマン諸島ではパフィンは絶滅寸前の事態に至った。理由は明白で捕獲過ぎの結果だ。当時、パフィンのダウン(羽毛)は高値でデンマークに輸出されていたのだ。パフィンの狩猟はその後30年間禁止されることになる。

1963年誕生の火山島スルスエイにでも

ウエストマン諸島の最南端に1963年11月の海底噴火で新しく誕生した火山島スルスエイが2008年に世界遺産に登録された。1963年から1967年に亘って繰り返された一連の火山噴火で誕生した直後からこれぞまさしく原始的とも云える自然の実験所として監視され続けられ、島の成長や形成の過程で新島がどのように進化していくのかについて多大なる見識や情報を提供して来たことが高く評価されたことに依るが、パフィンはこの島にも飛来し、営巣を始めている。そして、今やパフィンは新生地に植民化した動物の生態に関しての貴重な情報を供与している。

パフィンの巣作りと営巣。産卵数はたったひとつ。

地下の穴の中からパフィンたちのお喋りが聞こえてくる?アイスランドではパフィンはトンネル上になった地下の穴の軟らかい土の上に巣を営む。だから、巣の近くの草地にそっと座って耳を凝らすと軟らかな土間の巣の中で成長するパフィンの優しいうめき や甘え声が聞こえてくるのだ。あたかもパフィンが地下の穴の棲家で会話しているように聞こえてくるから不思議だ。一般的に、パフィンは岩場と草地層の境目に巣を作る。例外的に他の安全な場所に営巣するケースもある。産卵する数はたった一つだ。アトランティック・パフィンは営巣のために地下に穴を掘るがその長さはおよそ60cmに達する。嘴を使って穴を掘り、水かきのある足で掘った土を蹴り出しながら先に進んでいく。パフィンは最初に造った地下の巣を毎年使い続ける。記録では30年間も同じ巣を使い続けた例も報告されている。

パフィンはウミスズメ科。でも他のウミスズメ科の海鳥とは似ても似つかぬ

アトランティック・パフィンのラテン語名はFratercula ArcticaFraterculaで「弟」あるいは「修道士」を意味する。彼らが水面から飛び上がる際に、両足を結び合わせる習性があり、その様相がお祈りする格好に見えることから名付けられたという説がある一方、彼らのくっきりとした白黒のボデイカラーが聖職者の着衣にそっくりだという説もある。

アトランティック・パフィンはチドリ目ウミスズメ科に属する海鳥で、パフィンは鳥類の写真撮影でトップモデルにランクされる人気の存在であることは間違いない。カラフルでぼってりした嘴と真っ白な顔面の特徴は際立っていて他のウミスズメの種類には全く見られないものだ。パフィンの脚部は赤色でそれだけはウミバト科に属するハジロウミバトと同じだ。 しかし、すべての点でこの地域で見られるあらゆるウミスズメの種類とは全く似ていない。他のウミスズメに反してパフィンの特徴的外観はその静止しているときの姿だ。パフィンは足を真直ぐにして立っているが、他のウミスズメは足を折って座って休む。更には、パフィンはウミスズメよりずーと長く歩くことが出来る。

パフィンとペンギン、何か関係あるの?

パフィンとペンギンの間には何か特別な関係があるのではと思われることがあるが思い違いだ。容姿や色合いそして生活する場所など両者には極めて類似した点が多いが、生物分類上は全く異なる「科」に属している。更に顕著な相違事項はペンギンは南半球だけに棲息するが、他方パフィンの生息地は北半球に限られている。また、空や高所の上から見られても、パフィンの背中と頭の部分は黒色なので海水に溶け込んでパフィンは認知されることがないのである。 敢えて、似ている点を挙げれば、ペンギンと同じように、パフィンの容姿はサメなどの天敵から身を守るためカムフラージュされて迷彩柄になっていることだ。仮にサメがパフィンを見ても、パフィンの白い部分は空や海や海面に溶け込み、それらと一体となって見つからないのだ。

繁殖期以外のパフィンの生活の場は洋上。

パフィンは生活の殆どを洋上で過ごす。陸上で過ごすのは卵(たったひとつだけ)を産み、雛に孵しそして育てあげる繁殖期に限られる。彼らの色彩豊かな嘴の所為でアイスランドの人たちは海のオウムとか海のピエロとかのニックネームを付けて親しみを表している。

パフィンは短い翼をたくみに使って潜水し水中を無尽に泳ぐ。 彼らは身体を潜水させ、水面下で翼を羽ばたかせて推進し、脚を巧みに操作しながら泳ぐのだ。。ペンギンは外見上の容姿はペンギンに似ている。パフィンはペンギンのように巧みに潜水し、水中を泳ぐことが出来る。しかしペンギンは飛べないのに対し、パフィンは不恰好ながら空を飛ぶことが出来る。パフィンの潜水能力は信じられないがおよそ60mに達 し、潜水時間は115秒前後だ。陸地から飛び立とうとするパフィンは、飛ぶのに充分な揚力を確保するために崖から飛び降りるように離陸する。逆に洋上から飛び立つときには、飛行機が離陸するときと同じように風の吹いてくる方向に向かってせわしないほど激しく翼を羽ばたかせて風に向かって推進するのだ。

嘴いっぱいに魚を咥えているパフィンはとてもユーモラス!

嘴いっぱいに咥えた魚をぶらぶらさせているパフィンのユーモラスで愉快な写真をよく見かける。魚はイイナゴが殆どで、多くの場合、きちんと一列に並んでいるから余計に面白い。パフィンが一匹の魚を咥えたまま、如何にして2匹目以上の魚を捕らえることが出来るのか?その秘密はパフィンの舌と口蓋に棘のようなもの付いていて、咥えた魚を鋭くギザギザした嘴の縁で噛み挟んでしっかり固定して逃がさないようにしているからだ。過去の調査では一羽で60匹もの魚(小魚だが)を咥えていた例もある。

繁殖期と冬場では嘴の色合いも容姿もすっかり異なることをご存知?

繁殖期、成鳥のパフィンの嘴の色は鮮やかなオレンジと黄色になる。更に、アトランティック・パフィンには青色が加わる。嘴付近の羽毛はまるでバラを飾ったように鮮やかになる。冬が近づくにつれ、成鳥のこうした嘴とその周辺は元と同じ状態に戻っていき、全体に黒ずむ。このとき、パフィンの目の周辺の羽毛は換羽し、黒ずんだ色の羽毛に生え変わる。斯様な季節による変化で、パフィンの外見は劇的に変貌する。冬の装いでのパフィンの色合いは繁殖期のあのド派手な装いとは全く異なる色合いで、とても同種の鳥とは思えないほどだ。かつては異種だと考えられたときもあったらしい。

冬はどこで過ごすの?

幼鳥が成鳥となる8月の中旬以降9月初旬にかけてパフィンは越冬の為にアイスランドを離れます。そして、冬の間は北大西洋の南の海の洋上で過ごす。夫婦が別々にならなど、大部分が単独生活か小さな集団で生活し、決して地に足をつけることなく、完全に洋上で過ごす。

生涯同じ連れ合いと暮らすパフィン、再飛来後の再会は?

春になって、暖かいそよ風が吹き始める頃、パフィンは自分たちが生まれ育った同じ場所に戻って来る。故郷の沿岸部に辿り着いたパフィンは数日間、集団となって海の中だけで過ごす。この間に、多くの夫婦は久し振りに再会を果たすことになり、海に面した断崖の上の地面に上陸し、昨年の夏に子育てした営巣場所を捜し、そこで繁殖の準備に入るのだ。しかし、運悪く海上でのランデヴーが叶わなかったパフィンは地面にある自分たちの営巣場所でそれぞれの相方と出遭うことになる。パフィンは生涯を通して同じ伴侶 とペアを組む。しかし、数年間のペアリングを経てもなお子孫の誕生を見ないときにはその夫婦は離婚し、新しい相方を見つけることになるという。パフィンは通常5歳になって繁殖年齢に達する。繁殖年齢に達したパフィンは若い独り者(?)の相方をパートナーとして捜し出すか、相方を亡くした年上をパートナーにする。

パフィンの寿命は20年強が普通だが30年に及ぶ例もある。


Revised:09/06/19